原子間力顕微鏡による可視化で細菌毒素の構造と作用様式を解明

金沢大学医薬保健研究域薬学系の倉石貴透准教授およびナノ生命科学研究所の古寺哲幸教授らの研究グループは,原子間力顕微鏡(※1)を用いて,細菌毒素の1つであるモナライシン(※2)の構造を解明し,病原微生物の毒素が持つ特徴を分子レベルで明らかにしました。

自然免疫とは,私たちの体から病原体を排除して守るための生体反応の1つです。私たちの生活環境には,多種多様な細菌やウイルスなどの病原体が生息していますが,自然免疫システムが正常に機能することにより健康を維持することができます。これまでの医学的研究から自然免疫に関する各免疫細胞の役割や機能などさまざまなことが明らかになっていましたが,一つ一つの分子レベルで,病原体がどのように攻撃を与え,免疫細胞がどのように病原体による攻撃を防御しているのか,その詳細な免疫プロセスについては十分な理解が得られていませんでした。

本研究では,標的細胞に細孔を開けて障害を与える膜孔形成毒素の1つであるモナライシンに着目し,原子間力顕微鏡を用いてその構造を特定し,毒素としての特徴を明らかにしました。その結果,非常に安定な8量体構造の分子が2つ結合して不活性型となっており,それらが部分分解を受けることで1つずつに分かれた活性型が脂質膜に挿入して穴を開けることが分かりました。

本研究により,細菌毒素が作用する瞬間をリアルタイムに捉えることに成功し,毒素がどのように宿主細胞を殺すのか明らかになりました。今後は,このような毒素に対する防御法を開発することで細菌感染のダメージを減らすといった医療応用へと発展させていくことが期待されます。

本研究成果は,2020年3月27日(中央ヨーロッパ時間)に国際学術誌『Frontiers in Immunology』のオンライン版に掲載されました。

図. 原子間力顕微鏡によるモナライシンの観察

モナライシンの8つの分子が集積して8量体構造を形成し,細孔を形成する。

 

【用語解説】

※1 原子間力顕微鏡
 柔らかい板バネの先に付いた針の先端で試料に触れ,針と試料の水平方向の相対位置を変えながら試料表面の高さを計測することにより,試料の表面形状や動きを可視化することができる。

※2 モナライシン
 昆虫に対して強い病原性を示す細菌Pseudomonas entomophilaが産生する膜孔形成毒素。本研究において初めてモナライシンがP. entomophilaから精製され,その構造と機能が解析された。昆虫毒素は生物農薬のシーズとなる可能性があり,膜孔形成毒素はナノデバイスとしての応用が期待されるため,モナライシンの詳細な解析は医療応用以外にもさまざまな新技術開発につながることが期待される。

 

 

Frontiers in Immunology

研究者情報:倉石 貴透         

研究者情報:古寺 哲幸